接客業は卒業したよ! あけすけビッチかんどー日記!

接客業歴15年のかんどーが綴る、あけすけな日記。人生はチキンレースです。一歩引いた方が負け。たまに小説を書きます。お問い合わせはsaori0118ai2あっとまーくやふーめーるまで。

【短編小説】モヒートで乾杯

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モヒートで
乾杯




突然ですが、わたしには三つ子の姉がいます。三つ子なので上も下もないのですが、一応出てきた順番で長女・次女・三女という形になっています。


いちばん上が千織(ちおり)。母の名前が千鶴子なのでそこから取ってつけられました。次女が詩織(しおり)。父が文学を愛していたので詩という文字が入りました。三女が伊織(いおり)。響きが良いのでつけたそうでした。


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3人が生まれて5年経ったあとでわたしが生まれました。わたしは沙織と名づけられました。香織か沙織で迷ったようですが、父が南沙織のファンだったため沙織と名づけられました。


わたしは常に三つ子の姉の背中を見ながら生きてきた気がします。物心ついたころから、家の中は常に女たちの声にあふれていました。わたしが学校でちょっとしたもめごとを起こしても、姉さんの誰かがすぐ駆けつけてくれました。そんな姉さんたちも小学校を卒業し、中学生になると、わたしが小学校でもめごとを起こしても姉さんたちは助けに来てくれません。わたしはクラスで孤立していましたが、ひとりでいるのが苦痛ではなかったので、そのまま中学生、高校生へと成長していきました。


千織ねえさんはずっと三つ子のまとめ役でした。母さんと子どもをつなぐシナプスの役割をはたしていました。家事をきちんとこなし、ほかの姉妹に上手に家事を分担してさばいていました。千織姉さんは地元でちょっと有名な大学に受かったようで、大学を出たら出版社で働きたいと言っていました。


詩織姉さんは本当に本好きでした。

「沙織もこれ読んでみたら?」

とすすめてくれる本はすべて面白く、自然に本が好きになっていきました。詩織姉さんはみどり色の服が好きで、いつも「ミステリーをちゃんと読もう」と自分に言い聞かせる人でした。ある日こっそり詩織姉さんの日記を読んだら、コンビニでアルバイトをしていた時のエピソードが書いてあったのですが、今まで読んだどの小説よりもおもしろく、わたしは姉さんに小説家になったらいいのに、と言いたくなりましたが、日記を読んだのがばれるので言いませんでした。


伊織姉さんは、一人だけ、とても変わり者でした。千織姉さんと詩織姉さんはきれいなロングヘアなのに、伊織姉さんだけはベリーショートで、妹のわたしから見ても「サルみたい」でした。顔も伊織姉さんだけ、どんどん野蛮な感じになっていきました。

神様は、千織姉さんと詩織姉さんを丁寧につくったのに、伊織姉さんだけ雑につくったんじゃないかと思うくらい、彼女だけ異彩を放っていました。わたしも伊織姉さんだけ近寄りがたいと思っていました。



その後、それぞれ大学を出たり就職をしたりで家を出ていきました。わたしは三つ子がいなくなった家の中で、あいかわらずマイペースに育ち、底辺高校を出ました。

「もうあんたの分の学費は残ってないわよ」


と言われたので、自分でためたバイト代で夜学の短大に入りました。ぼろアパートで一人暮らしをしながら、昼は正社員、夜は学校の生活をしました。とてもきつかったので、二年間の記憶はほとんどありませんでした。そのままわたしはパン工場の夜勤としてはたらき、昼もアルバイトをして、とにかく生きるためのお金を稼ぐことに必死でした。家族はばらばらになりました。



5年ほどたったころでしょうか。



父が体調を崩したとのことで、実家に一同が集まる機会がありました。


千織姉さんは実家を出てもまめに帰省していたようで、家のことをみんなわかっていました。大人の話ができる、立派な大人になっている感じでした。

詩織姉さんは役所勤めを始めていました。防災訓練で町中に放送を流すとき、「ぴんぽんぱんぽーん」の音源がなくなってしまい、急きょ詩織姉さんが歌で「ぴんぽんぱんぽーん」と歌ったそうです。三姉妹の中で一番かわいらしい顔立ちの詩織姉さんの話で、みんな盛り上がりました。

伊織姉さんは、とてもけばけばしい女に変わっていました。小さな目を囲むように、派手な紫のアイシャドウ。紅い爪の先はとがっていて、姉さんの心を見ているみたいでした。聞くと、専門学校に入ったけど途中でやめてしまい、水商売を始め、いかがわしいビデオに出ていたこともあるとうわさで聞いたことがありました。伊織姉さんの携帯が鳴りました。

「はーいアケミです」

姉さんはアケミという名前で暮らしているんだ…。それが源氏名というものだとはその頃はまだ知りませんでした。今夜お店に来てもらう約束を取り付ける電話を終えると、

「あたし、夕方には仕事に行かなきゃだから。話があるならそれまでにして」

と言い放ちました。伊織姉さん…と言いかけると、もうその名前で呼ばないで! と強く制されました。


父が入院する日程などを聞いて、交代でお見舞いに行くことなどを話して、話がひと段落したころ、伊織姉さんは帰ると言い出しました。わたしも夜勤の仕事があるから一緒に帰ろうと思い、靴をはきました。千織姉さんと詩織姉さんは実家に残って夕食を食べていくと言っていました。

伊織姉さんと並んであるきました。


「姉さん、アケミって名前なんだ」
「ふふ…気に入ってるんだ」
「さっきの、お客さんだよね? 水商売って楽しい?」
「大変なことも多いけど、やったぶんだけ自分に返ってくるし、過去のことをとやかく言われないからあたしは好きかな。知ってると思うけど、AVもやったんだよ。あれはきつい世界だったな。もうやろうとは思わないよ」

「姉さんがきついって言うんだもん、相当きついんだね」
「沙織、あんた今工場の夜勤で働いてるって言ってたよね? 時給いくら?」
「夜10時までが850円で、そこから朝5時までが1100円だよ」
「沙織、その仕事バックレちゃいなよ。今夜から時給2500円の仕事しな」
「ええっ! それは無理だよ! 水商売…でしょ?」
「あんたもうハタチ超えてるじゃん。ちょうどいいよ。今うちのお店、女の子足りないんだ。店長困ってるし、沙織来てよ」

話ぶりから、伊織姉さんが店長とただの関係でないことはすぐ理解できた。そして、伊織姉さんの変わりようが、当時20歳のわたしにはとても興味深く思えた。何より、この機会に飛び込んでおかなかったら、今後一切わたしに水商売の誘いは来ないだろう。わたしは飛ぼうと思った。姉さんと一緒なら、未知の世界でも心強い。

「わかった。今夜から働く」
「いいねえ、その即決。名前どうする? 水商売で使う名前、源氏名」
「わたしもちがう名前でやりたい。ちがう自分になりたい」
「そっか。じゃあ、ちょっと変えて、さつきってどう?」
「あ、新しい自分って感じ。さつきがいい!」
「ドレスはあたしの貸すから。あと今日はそのままでいいけど、もうちょっと髪の毛手入れしてね」
「うん」


その日から、伊織姉さん…じゃなくてアケミ姉さんと新人さつきの姉妹接客が始まった。アケミ姉さんは、自虐ネタでみんなを笑わせることもあった。三つ子であることをネタに「ほかの2人はちゃんとしてるんだけどあたしだけ野生のサルみたいで」とおどけてみんなを笑わせていた。姉さん自身も爆笑していた。そうやって笑うたび、姉さんは子ども時代の自分をどんどん脱ぎ捨ててているようだった。姉さんはどんどんきれいになっていったし、わたしもどんどん化粧を覚えて夜の女っぽくなっていった。

 

自分のお客さんを持つようになり、会話や色気でもって店に通わせる技術を少しずつ身につけていった。お客さんが増えて、ボトルを入れてもらうほど、わたしのお給料は増えた。

同伴で美味しいお店にもよく連れていってもらった。それでも太らないように、日中ジムに通ったり、半身浴をしてから眠るようになった。



季節がひとまわりした。


ある夏の日の営業終了後、わたしは姉さんと二人でバーに飲みに行った。

その日の姉さんは少し疲れていて、いつものギムレットじゃなく、アルコールの弱いモヒートを頼んでいた。わたしもすっきりしたい気分だったので、モヒートを頼んだ。2人のグラスが運ばれてくる。ミントのたっぷり入った透明なお酒で乾杯する。



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知らなかった。世の中にこんな夜の世界があるなんてこと。人って表の顔と裏の顔があるってこと。やってみたら結構人間なんでもできちゃうってこと。

姉さんの疲れがどこからくるものなのか、今なら理解できた。わたしも疲れてきたから。今夜姉さんの話を聞き終わったら、そのあとでわたしも話そう。そろそろ水商売をやめて、もっと稼げるソープランドで働いてみたいということを。



お客と寝るのを上手にかわしたり、太客とは特別に、枕営業をすることもあるこの世界。わたしはそのかけひきがとても面倒くさかった。会うお客すべてと寝ても構わないと思っている。わたしには貞操観念が欠落していた。誰と寝てもわたしは何も失わない、そう思っていた。それならば、いっそのことソープランドで肌を重ねる接客をした方が、今感じている疲れを感じなくて済むと思った。

これからは、水商売で得たトークや化粧の仕方、体のつくり方を武器にして、風俗の世界で働いてみるつもりだ。


大丈夫。何の仕事をしたって、仕事のあとでこうして清涼感のあるカクテルが一杯飲めたら、それだけで幸せじゃないか。たまに姉さんともこうして会って飲もう。


姉さんは三つ子の呪縛から逃れたくて夜の世界へ入った。ずっと比べられながら生きるのが嫌だったのだろう。今の姉さんは、学生時代よりずっと輝いている。

わたしは姉さんの魂に共鳴して夜の世界へ入った。人は、共鳴しながら人生の分岐点を進んでいくのだと思う。あるいはふとした思い付きで、本来なら選ばない分岐点を曲がっていく人もいるだろう。そういうのをすべてふくめて、人生って面白いって思うんだ。



「姉さん…もう一杯飲もうよ」

千織姉さんや詩織姉さんも、住む世界は違っても、きっとこんなふうにいろんな分岐点の話をしているのだろう。人と人が一緒に仕事をして、何も起こらないなんてありえないのだ。だから、千織姉さんは楽をしているとか、詩織姉さんが得をしているとか、そういうのは実は無いのだ。みんな苦労して、それぞれの生き方を選び、人生を泳いでる。あと20年もしたらみんなおなじおばちゃんになるんだ。そうしたら、またみんなで仲良く話せる日がきっと来る。

その日が来るまで、精一杯生きよう。


二杯目のモヒートが運ばれてきた。たくさんのものを洗い流すように、わたしたちはもう一度乾杯をして、ミントの香りのするお酒をくっと飲んだ。








エイプリルフールに乗っかってネタを短く書くつもりでしたが、気づいたら完全創作の短編小説になってました。

三つ子の姉さんがいる妄想は「海街diary」を読んだときからずっとしていて、わたしはすずみたいになれない、わたしならきっと家を出て水商売とか風俗とかに流れるだろうと想像していました。


実際わたしに三つ子の姉がいるかどうかは、ご想像にお任せします。


なんか勢いついたので、このまま原稿書きに入ります。
それでは、また明日~♪



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