新幹線が遅れに遅れまくった台風の日。
わたしは午前中の新幹線で、大阪へ向かっていた。前の列車がつかえていて東京駅を出られない、信号待ちで停止等、遅延が出るたびに車掌さんがアナウンスで、現在何分の遅れなのかを教えてくれた。
新大阪まで、車掌さんの懸命なアナウンスは続いた。
「現在、〇〇駅を23分遅れで通過しております」
「列車が遅れまして大変ご迷惑をおかけしております」
「現在、〇〇駅を28分遅れで通過しております、この先〇〇駅到着見込み時刻は…」
かなり頻繁にアナウンスがあった。遅延の状況が変わるため、アナウンスもその都度入れなければならない。また、どこかの駅へ停車するたび、乗り込んだ乗客へその状況を伝えなければならない。
最後、新大阪へ到着する際のアナウンスでは、若干噛み噛みになっていた。あれだけアナウンスをしたら舌ももつれるだろうと思った。何人かのサラリーマンがそのアナウンスを聞いて笑った。
「噛み噛みじゃんw」
その直後、別の男性の声のアナウンスが流れた。
「当列車の車掌は〇〇が務めさせていただきました。えー、〇〇は本日を持ちまして定年退職となります。長年の乗務お疲れさまでした」
車内はシン…と静まりかえった。その後、50代くらいの旅行者グループが拍手をしたのをきっかけに、車内は拍手の渦に包まれた。さっき「噛み噛みw」と笑っていたサラリーマンも「定年か…すげえ!」と惜しみない拍手を送っていた。
みんなが笑顔だった。
最後の乗務が、こんな台風の日できっと大変だっただろう。でもきっと、忘れられない乗務になったんじゃないかな…そんなことをみんな思っていた。目を見合わせて笑っただけだったけど、なんとなくそう思っているのがわかった。
新幹線は、遅れ遅れながらも約40分の遅れで乗客全員を安全に東京から新大阪まで送り届け、すべての乗客が笑顔でホームに降り立った。数歩歩いていくと、周りのみんなが「他人の仮面」をそれぞれのタイミングでつけはじめたので、わたしも遅めに装着した。
…ここで、わたしは若干の好奇心がわいた。
車掌さん、どんな人なんだろう。相当なおじいさんなのかな…と。
※わたしはおじいさんに特別な感情を持っています
ホームの端から真ん中まで無駄に歩きました。改札階へ下りる階段をいくつかパスして、とにかく車掌さんを見つけなくては! さっきのアナウンスでは、8号車にいると言っていた。わたしは15号車に乗っていたので、8号車まで歩いた。
8号車のドアの前に、車掌さんはいた。
2人の若い乗務員に囲まれるようにして、小柄な風貌のやさしそうな人がいた。
…しかし、思ったより若い。どう見ても50歳くらいにしか見えない。白髪はあるものの颯爽としているし、姿勢も良い。この人がさっきの車掌さん!?
わたしは勇気を出して声をかけました。
「あの……先ほどのアナウンスの車掌さんって……」
「ああ、私です」
55歳くらいの男性は姿勢を正したまま、答えた。特にそれが特別なこととも思っていないようすで、さっと脱帽し、わたしに向かって一礼をしてくれた。
「お疲れさまでした!」
それだけ言って踵を返すと、後ろから「どうもありがとうございます」と聞こえた。軽く振り返りながら会釈をして、なんだか余計なことを聞いたみたいな気持ちになったけど、思っていたよりずっと元気そうな車掌さんで嬉しい気持ちになった。アナウンスの声こそ疲れていたけれど、さすが長年の乗務をこなしていただけのことはある、プロの立ち振る舞いでした。
わたしはあの車掌さんの人生を、美しいと思いました。
生涯現役、現場に立ち続け、さわやかな顔で定年退職していく。けして簡単なことではありません。雨の日も風の日も、電車の中でトラブルがあったときもしっかり対応し、仕事に負けなかったんです。
わたしも、60歳くらいまで頑張ってもいいかな。
そんな気持ちになりました。まだ38歳だけど、最近体力の衰えが気になります。20代の人と仕事をすると、体力の面ではまず勝てない。
あーもう潮時かしら。。なんて弱気になることも多かった今日この頃。
だけど、今回の大阪出張で、わたしはものすごく励まされたんです。
この車掌さんから始まって、お股の脱毛をしてくれるエステティシャンのすみやさん、たこ焼きの師匠、みんなが、
「あなたは60歳くらいまで突っ走れるよ。40代は思いっきり動いていいと思うよ!」
と言ってくれた。わたしはそれが正しいと一瞬で信じられたわけではなかったが、こう何回も同じことを言われると、わたしも「もうちょい頑張ってやろうじゃん」っていう気持ちになってくる。
この新幹線のアナウンスをきっかけに走り出した大阪出張も今日の朝で終わり。このブログが更新されている頃には、わたしは東京へ向かう新幹線の中です。
今回もたくさんの経験ができたし、ビジネスパートナーとの絆も深まった。やっぱりわたしは、大阪が好きです。
そして、同じく大好きなセブ島に向けて、これから本格的に動き出すのです。
台風の日の、新幹線の車内アナウンスに感動した、、というお話でした。
それじゃあ、また明日!