接客をしていて、久しぶりに心から笑った。
たまたまなのだが、わたしが担当しているお客様が、本が大好きな人だった。仕事が忙しいから、携帯ショップなんて久しぶりだと言いながら彼女はニコニコしていた。本当に、何年も携帯ショップに来ることなく、忙しい毎日を過ごしていたらしい。
「でもね、この先にある本屋さんへはよく行くんですよ。休みのたびに行っているかも」
そう言って笑う彼女に、つい聞いてしまった。
「どんな本を、読まれるんですか?」
彼女は恥ずかしそうに、わりとポピュラーな作家さんの名前を答えてくれた。わたしは、その作家さんの中では○○が一番好きです! と返した。だんだんお互い、本の話をしていい相手なのだとわかってくる。
彼女からは人気作家の隠れた名作を聞いた。未読なのでその日の帰り道にすぐAmazonでポチッた。わたしは今自分が通勤中に読んでいる、珠玉の短編集を伝えた。彼女は「機種変更が終わったら、本屋さんでそれを探して、買ってみる! 楽しみがまた増えちゃった」と言ってくれた。
こんなふうに自然に話せたのは、実は結構久しぶりである。たまたま人恋しい気分だっただけかもしれないし、本の話が楽しすぎただけかもしれない。
だけどわたしは、何か一つ、山を超えたような気がした。
何をしても辛かった少し前の時期から、抜け出せたようだ。
気づかせてくれた彼女にお礼を言いたい。また、会えるかな。会えたら今度は別のオススメの本をまた教えてもらおう。彼女が好きな本は、たぶんわたしも好きだと思うから。
気持ちの上では、わたしは彼女にこのくらい近づいた気分だった。(発達障害なので、人との距離を縮めるのが異常に早いことがあります)

そのお客さん……彼女は、帰り際にわたしを見て、何か言いたそうな顔をしてくれた。わたしも言いたかった。よければこれからも友達になってほしい。たまに会って本の話とかしたい。お互いそんなふうに思っていたような気がする。もちろんわたしの気のせいかもしれないけれど。
とにかく、機種変更の終わった携帯電話を手渡したとき、わたしと彼女は一瞬目が合って、2秒くらい何も言わなかった。
そしてそのままわたしは彼女を見送った。これから本屋へ行く彼女を。
いつか、お店以外の場所でまた会えたら、今度は友達になりたい。
それじゃあ、また明日!