接客業は卒業したよ! あけすけビッチかんどー日記!

接客業歴15年のかんどーが綴る、あけすけな日記。人生はチキンレースです。一歩引いた方が負け。たまに小説を書きます。お問い合わせはsaori0118ai2あっとまーくやふーめーるまで。

コージーコーナーの黒歴史

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「コージーコーナー」をご存じだろうか? 駅ナカやデパ地下などに必ずある、ケーキや焼き菓子の販売店だ。手土産に便利なのか、本当にどこにでもある。

 

 

わたしは、コージーコーナーが怖い。

 

理由は、ある飲食店で働いていたときの恐ろしい思い出がよみがえるからだ。

 

 

★★★

 

 

その飲食店はビルの三階にあり、常時厨房3人、ホール3人ほどで回していた。わたしは厨房で一番古いアルバイトとして働いていたため、店の鍵開けを任されていた。とは言え、規定時間に出勤して仕込みをし、ラストオーダーを取り終わったら、あとは遅番の厨房スタッフに任せて、鍵はホールの古株の人がかけて帰っていた。労働時間はちょうど9時間であり、深夜帰宅にはなるが、自転車通勤だったので苦痛は感じなかった。

 

その店は入り口を入ってすぐのところにレジがあるのだが、そこにオーナーが立っているのが常だった。このオーナーは非常に怖い人であり、気に入らないことがあるとアルバイトを殴っていた。わたしは女なので殴られたことはなかったが、ガンを飛ばされたりはしょっちゅうだった。

 

ある日、オーナーからわたしの携帯に連絡があった。

 

「さおりちゃん、今日オレ行けないから、レジんとこに立って、金の管理しといてくんない?」

 

その日は特別な料理の予約もなかったので、わかりましたと答えた。わたしは厨房服からフロア係のパンツスーツに着替え、レジ前に立って金銭管理と来客管理の仕事をこなした。そもそもわたしは厨房係ではあるが、レジ精算の作業が他スタッフより早いため、オーナー不在の時にわたしがレジ精算を行って夜間金庫に入金しに行くことはよくあったので、特になんとも思わなかった。

 

その日を境に、オーナーは出勤時間に来なくなった。18時オープンの店だったのだが、21時に来ることもあれば、22時のこともあった。遅い時は0時を回ってから店に来た。

 

わたしはオーナーが来るまでレジのところにスーツ姿で立ち、オーナーが来るとあいさつをして、厨房服に着替えて厨房に入るようになった。しばらくはなんの問題もなく営業していた。

 

 

オーナーがだらしなくなってから三か月ほど経った頃だろうか。あきらかに客の入りが悪くなった。19時を過ぎても店内に客はゼロ。そのとき、あきらかにタチの悪そうな男二人組が入ってきて「二人だけど、いい?」と聞いてきた。店内はガラガラであるので断るのもおかしいと思い、「はい、どうぞ」と言い、席に案内して注文を取った。

 

30分後、オーナーが真っ赤な顔で店に来た。

 

わたしの襟首をつかみ、更衣室で投げ飛ばされた。どこかぶつけた痛みがあったが、それどころではない勢いでオーナーは激怒していた。

 

「お前、誰に断ってあんな客入れてんだよ!」

「えっ……?」

 

どうやら、このあたりで有名な悪いやつらのようであった。さまざまな店で出入り禁止を食らっているらしい。正しい対応は「本日予約で満席となっております、申し訳ありません」であったらしい。

 

しかし、わたしはそのことを知らなかった。それを説明すると、

 

「知らなかったで済まされると思ってんのかよ!」

 

と更衣室の壁を蹴った。更衣室の壁に穴が空いた。

 

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「……お前が女じゃなかったら、壁じゃなくお前蹴ってたからな」

 

 

オーナーはすぐに別のスタッフに指示を出し、これから予約の団体が来るから、今日の代金はいらないから帰ってくださいと客に伝え、客を帰らせた。わたしはその一部始終をただじっと見ていた。

 

翌日からオーナーは店に来るようになった。しかし、明らかにわたしに対する態度がひどかった。そのためわたしは誰とも口をきかずに仕事をするようになり、一週間後に退職願を出した。すぐに受理され、その一週間後に辞めて良いことになった。

 

二週間、蝋人形のような顔で勤務をつづけたわたしは、最終日の勤務時間が終わったことを確認すると、タイムカードを打刻し、小声で「おつかれさまでした」と言って帰ろうとした。荷物は何回かに分けて持ち帰っていたので、いかにも退職、という雰囲気ではなく、ただの帰宅のように見えるよう工夫した。

 

「おい」

 

オーナーがわたしを呼び止めた。そして、四角いギフトのような箱を投げてよこした。

 

「長い間お疲れさん」

 

嫌いな歌を歌うようにそう言い、オーナーはすぐにレジ精算の作業に戻った。ほかの従業員も下を向いて黙って仕事をしていた。その店は従業員が長続きせず、3か月程度でやめてしまう。わたしは1年いたので長いほうだったらしい。

 

一階に停めてある自転車に乗って帰宅した。もともとその店は、オーナーこそタチが悪いけれど、従業員の仲が非常に良いお店で、お店終わりでみんなでカラオケなどによく行っていた。わたしはそのお店が好きでそこの近くへ引っ越し、アルバイトもそこだけにしたくらいに、最初はみんなで楽しくやっていた。

 

しかし、オーナーが一人ずつ、難癖をつけてやめさせていった。仲良しだったアルバイト仲間は散り散りになり、知らない人ばかりの中で働くことになった。わたしは人間関係を作るのが面倒くさくて、新しく入ってきた男性従業員と必ず体の関係を結ぶようになっていた。頭がおかしくなっていたのだと思う。ちなみにオーナーとは体の関係は結んでいない。

 

そんな毎日を思い出しながらぼさぼさの頭で自転車に乗り、10分もかからず帰宅した。このあとバイトどうしよう……という不安もあったが、その前にやらなければならないことがあると思った。

 

1DKのアパートでわたしは、オーナーの手渡した包みを開けた。ピンクと黄緑が基調となった箱に、焼き菓子が8個くらい、入っていた。「コージーコーナー」と書かれていた。焼き菓子は乱暴に持ち運んだことがわかるくらい大きく左側に寄ってしまっており、とてもプレゼントされたものと思えないくらい、心が貧しくなるものだった。

 

わたしはそれを、開けては口に詰め込み、詰め込んでは飲み込んだ。なるべく早くこの作業を終わらせたいと思った。4個目くらいから苦しくなったので、焼酎で流し込んだ。全部流し込んだあと、トイレに行って全部吐いた。

 

 

「終わった……」

 

 

わたしはキッチンに戻り、口をすすいで焼酎を飲み直した。その日は結局、焼酎しか口にしなかった。その翌日も、翌々日も、焼酎しか口にしなかった。

 

わたしはアホらしくなり、女しかできない仕事の求人に電話をし、すぐに雇ってもらった。その求人は、アロマオイルを用いて男性を快適にする仕事であったため、仕事をしているだけでアロマの知識が身に着き、マッサージの研修も受けることができた。もともと仕事は一生懸命するたちなので、すぐに常連のお客様がついてくれて、わたしは週4日の出勤日のほとんどが指名で埋まるようになっていた。月収は、飲食店で働いていたときの3倍、60万くらいもらえるようになった。

 

アロマオイルのお店では1年半働いた。

 

焼酎を飲む癖も、自然になくなった。人を健康にする仕事なのだから、自分が健康的な体でいなくては、と思うようになったのがきっかけだった。お酒はアルコール度数の低いビール1日1杯までと決めていた。タバコもやめた。仕事中は水着で接客をするので、太らないようにジムに通っていた。

 

お客さんにマッサージをするたびに、自分の心に栄養がいきわたっていく感覚だった。わたしは、人に喜ばれることをすることで自分を癒せるのだと気づいた。疲れているお客さんが笑顔になって帰っていく。わたしが疲れていると、常連のお客さんは敏感に察知して、帰り際にわたしの首や肩を揉んでくる。

 

「どうした、ちょっと元気ないぞ?」

 

お客さんにばれてしまうなんてプロ失格だなあ…という顔をしていると、お客さんはたいてい、「今日も気持ち良かったよ。前半のマッサージも、後半も」と言ってくれる。後半、とはつまりそういうサービスのことだ。わたしは前半も後半も大好きだった。前半は親しみを込めて、後半は恥じらいと色気を出してサービスするのがポイントだ。

 

 

その仕事を1年半続けてやめるとき、最終日はたくさんのお花をいただいた。わたしがお花を好きだと言っていたから、花をくれた人が多かったのだ。お店のスタッフさんからは、ティーカップのセットをいただいた。紅茶が好きなのを知ってくれていたので、みんなで選んでくれたらしい。

 

愛のこもったプレゼントをながめて、わたしはふと思い出した。

 

 

前の飲食店でもらったのは、コージーコーナーの焼き菓子セットひとつだったな……

 

 

一瞬だけ真顔になったが、もう過去のことだと思い、すぐに頭を切り替えた。お店のみんなにお礼を言い、お店のパソコンから最後のブログ更新をして、わたしはその仕事を「卒業」した。

 

 

以来あの手の仕事には就いていないが、ブラック企業なんかで働くより、あの仕事のほうがずっといいと今でも思っている。

 

 

そして、今でもコージーコーナーの前を通ると、たまに猛烈な「呪い」がわたしの頭をもたげる。突然に癇癪を起こすのだ。

 

コージーコーナーの箱入り焼き菓子を見たときもそうなる。よほど嫌だったのだろうと思う。わたしはたぶん人生でもう二度と、コージーコーナーの焼き菓子は食べられないと思う。ケーキは一度誰かからもらって食べたことがあるけれど平気だった。だけど焼き菓子はだめだ。

 

 

世の中はとても理不尽で、そして思わぬところに神様がいたりする。「この仕事は汚いから」などと偏見を持っていたら、わたしは立ち直れなかったかもしれない。20歳の頃、お金が無くて死にそうだったわたしを助けてくれたのも、26歳の頃、ブラック企業で使い捨てられて死にそうになったわたしを助けてくれたのも、結局女しかできないあの仕事だった。

 

わたしはどの世界にも神様がいると信じている。その仕事を一生懸命にすることで、その仕事の神様がほほえんでくれて、仕事を通じて魂が浄化されると信じている。

 

だからこれから先どこへ行っても、どんな仕事をすることになっても、わたしはちっとも怖くないのである。

 

 

★★★

 

 

コージーコーナーの黒歴史を書きました。

 

 

それじゃあ、また明日!