接客業は卒業したよ! あけすけビッチかんどー日記!

接客業歴15年のかんどーが綴る、あけすけな日記。人生はチキンレースです。一歩引いた方が負け。たまに小説を書きます。お問い合わせはsaori0118ai2あっとまーくやふーめーるまで。

ミラーボールの光の中で

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   ヒールの足が痛い。私は唇の片方をきゅっと上げて不機嫌を笑顔の下に隠した。ミラーボールはエンドレスで廻り続けている。キラキラ。未来はミラーボールの光に照らされて輝いていると思っていた。

 

   当時25歳、キャバクラでスタッフとして働いていたあの頃の私。エクステをつけた茶髪を高い位置でまとめ上げ、細身の黒スーツに身を包み、ヒールのあるサンダルを履いてキャバクラのホールの片隅でユーロビートに合わせて体を揺らす私がいた。

 

   キャバクラは夢を売る空間だ。一番に輝くのはキャストさんでなければならない。スタッフの私はどこにいても「明るく楽しく考え過ぎず」のチャラい姉ちゃんであるべきだった。流行りのユーロビートは詳しくなかったが、毎日聴いていればすっかり覚えてしまう。別に踊りたくないけど、手持ち無沙汰にしているよりは楽しそうに振りつけでも真似ていたほうがチャラく見える。

 

   私は決めの振り付けのところで楽しげに踊りながらフロアにいた。でもお客さんやキャストさんから「お願いします!」とコール(お願いしますの声)がかかると誰よりも早く「ただいま!」と声をあげて近づきオーダーを取る。男性スタッフさんが力仕事である灰皿交換やアイス交換を率先して回るため、私は「コール」を誰よりも早く取るのだ。

 

   金曜の夜は長い。7時にお店がオープンし、しばらく私は外に立つ。客引きという仕事を任されていた。そうしてフロアが温まってきた夜9時半頃から明け方4時までフロア業務につく。一番盛り上がっている時間帯だけは私もアイス交換や灰皿交換、グラス補充を手伝う。スタッフ間の連携は常に好調。

 

   ミラーボールは絶え間なくキラキラとフロアを照らす。深く考えることを放棄した私は仕事が好きだった。たとえば延長。「あともう1時間、ご延長お願いしまーっす!」とか言ってお客さんと話をする。キャストさんの手元で「バツ」が出た時は見逃さず「今日ほんとにありがとうございます!   またお待ちしてまーす!」と笑顔をつくる。押してはいけない日もあるのだ。

 

   売上目標に満たない時は「ボトルプッシュ」という仕事に行った。私のチャラさを活かしてシャンパンやキープボトルを入れてもらうのだ。一見さんであってもお金を使うのが好きで、プッシュするとスルッと出ることもあるし、キャストさんがうまいこと「○○飲みたーい♡」とか言ってくれてボトルが入ることもある。

 

   私の仕事のすべてをミラーボールは見守っていてくれた。この光の中で生きられるのはきっと長くてあと2年くらい。その日が来るまでもう少しだけここで泳がせて……と私は思っていた。

 

  ラスト(閉店)が近くなる。お客さんのカラオケが入る。私は手拍子を軽快に響かせてフロア内を縦横に歩き回る。最後のアイス交換、灰皿交換を済ませてラストオーダーを取りに回る。すべてのオーダーが完了し、私は時間を確認して「ラストオーダー完了です、ラスソン(ラストソング)お願いします!」とインカムを流す。

 

   店内のライトが一斉に落とされる。暗くなった店内に宇多田ヒカルの「wait and see」という曲が大音量で流れる。独特のボーカルが最初の発声をするタイミングでミラーボールだけが回り出す。ほかの灯りがないから店内は薄暗い。キャストさんとお客さんは大音量のため顔を近づけあってその日を締めくくる話をしている。

 

「だって  躓きながらって  口で言うほど楽じゃないはずでしょう」歌い出しも一字一句覚えている。軽く口ずさみながら私はフロアをさっと移動する。万が一にも「おさわり」などが無いように私はその日の立ち位置を決め、フロアを見やりながらその1曲を最後まで聴く。転調して曲が最後の1音を鳴らし終える瞬間、すべてのライトがつきミラーボールはその日の仕事を終える。

 

   私は静かになった店内を順番に「本日はありがとうございました!   まもなく閉店のお時間となります!」と伝えにあがる。酔ってしまったお客さん、帰りたくなさそうなお客さん、それぞれに合ったテンションで声をかけてスタンド(お帰りいただくこと)してもらう。

 

   最後のお客さんを見送り、キャストさんに「お疲れさまでした!」と一礼して私はホールの片付けに入る。ほかのスタッフさんと連携して、明日の準備を含めた片付けにとりかかるのだ。

 

   私は「♪キーが高すぎるなら下げてもいいよ」と宇多田ヒカルのラスソンを口ずさみながらその日を終える。そうしているとキャストさんもスタッフのみんなも私に話しかけやすいのだ。

 

「ねーさおりさん」、キャストの一人が私に相談をもちかけてくる。私は振り返り、チャラい笑顔で「これから飲みいく?」と言い、とりとめのない話や大事な話を聞きにいく。私はそこにいるけどもうそこに私はなくて、ただキャバクラスタッフのチャラいけど真面目な姉ちゃんがミラーボールの下でいつもはすっぱな笑顔を浮かべていた。

 

 

 

……私の若い日のことを書いてみました。私は普通に生きてきたし、これからも普通のことを普通に楽しみながら生きていきたい。私はあの頃の私も今の私も、大好きだ。

 


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追記

この記事はelve(id:elve)さんと行ったクラブですべての記憶が蘇って来て、書いたものです。姐さんありがとう。あの日のことは別で記事にするね。次回こそマリ(id:mari1216)さんも一緒に踊ろう!

 

また明日!