こんにちは、かんどーです。
わたしは、かれこれ15年以上接客業をしています。合間にガチな営業職の時代もありましたが、結局接客業が一番長いです。
帰宅後もクレームの怒鳴り声の幻聴に悩まされる日々もありましたが、最近は「今日はちょっと疲れたな」と思うくらいで、それなりに自分の感情をコントロールしつつ仕事を終えることができています。
あるとき、同業の人と話していました。その人はやさしい面立ちから、お客さんに怒鳴られることが多いようで、かなり疲弊していました。その人をMさんとします。
「ほかにもスタッフはいるのに、わたしに『ねえ、あと何分待つの?』って聞くんですよ。ほかのお客様を接客しながら『30分程度お待ちいただきます』とか答えるでしょう? それで30分過ぎたら鬼の形相でわたしのことを個人攻撃してくるんです…お前が嘘をついたから電車に乗れなかった、大事な商談に遅れる、なぜ嘘をついた!? って…」
わたしは、心の中で(あー…言葉尻かじり虫※かぁ…)とお客さんをイメージしていました。お客さんの中には、わたしたちが失敗するために罠を仕掛けて、失敗した瞬間に責めたて始める人がいます。Mさんに待ち時間を聞いて、それを過ぎたら怒鳴るつもりでわくわくしながら待っていたのでしょう…
※言葉尻かじり虫→店員の言葉尻をとらえてネチネチとクレームをつけるタイプ。黙っていたらいたで「〇〇と思ってんだろ?」とかふっかけてくるのでタチが悪い
わたしは、そういう人がなんとなくオーラでわかるので、待ち時間を聞かれたら「今受付しているお客様があと〇名様終わり次第のご案内となります、お待ち時間は30分…と機械では表示されたと思いますが、実際は2時間かかる場合もあります」と答えています。言葉尻をとらえられなくて悔しい気持ちがあるのか、八つ当たりされることもありますが、相手のペースに持っていかれるよりはるかにマシです。
もちろん、待ち時間におおらかなオーラを出しているお客様には、軽い感じで「30分程度でご案内できますよ。長引いちゃって、もう少しかかったらごめんなさい」とサックリ答えます。
さて、悩み相談をしてきたMさんとわたし、どちらが接客が丁寧で、お客様受けが良いでしょう?
答えは……
圧倒的にMさんです。
Mさんと一緒のお店で働いたことは数日しか無いのですが、Mさん指名のお客様は毎日必ずひとりは来るそうです。ご近所の人や常連さんからも愛される、本当に素敵なスタッフさんです。
対するわたしは、鉄壁の守りでクレーマーに付け入るスキを与えない接客です。「このお客様は大丈夫だな(クレーマー要素が無いな)」と判断したらある程度フレンドリー接客に切り替えますが、それでもMさんのような、にじみ出る優しさはありません。
Mさんとはその後もいろいろ話していたのですが、最終的に接客業をやめることになりました。しばらく接客業から離れて、おだやかな生活が送りたいと言っていました。まじめな人柄で、パソコンでする業務も上手な人でしたから、転職してもきっとうまくいくと思います。
でも……Mさんが辞めると聞いて、悲しんだお客様はたくさんいたようです。最後の日には、常連のお客さんが何人も挨拶に来たと言っていました。送別会も開いてもらい、ちょっと泣いちゃったと言っていました。「きつかったけど、楽しいこともあったな」と笑っていました。
わたしは、もし携帯買うならMさんみたいな人から買いたい。優しくて話を聞いてくれて、くしゃっと自然に表情を崩して笑う、素敵なMさんに接客してほしい。
Mさんが辞めてしまってショック…そのことを、別の同業の人に相談しました。
「かんどーさんは、お客さん選んでるよね。危ないと思ったら警戒態勢取るでしょ? あと、揚げ足取られないように細心の注意もしてる。あと、そろそろクレーマー怖くないでしょ? あと、順番待ちで割り込みをしたお客さんに、真顔で怒れる人でしょ? そういうの出来ないと、見えない疲れが溜まっちゃうから、仕方ないかも知れない」
こんな答えが返ってきました。
確かに、クレーマーは嫌ですが、怖くは無いです。また、ダメなものはダメと言います。特に割り込みに対しては「あー、ダメです、先に待ってる人がいますから」と真顔で言います。「他のお客様がお待ちいただいておりますので…」とは言わず、「ダメ」と言います。なぜなら、一部のクレーマーはマニュアル言葉が嫌いで、マニュアル言葉に対する返しを用意しているからです。
「他のお客様って、何人待ってんだよ? あと何分待つんだよ?」
ほぼ確実にこう返ってきます。なので、あえてこちらはマニュアル言葉でない言葉で話します。そうすると、一瞬ですがこちらのペースになるんです。その空気の中で、落としどころを決めていく。(店内で待っていたらイライラするタイプのお客さんだったら、外出して1時間後に戻ってきてもらったり)
意外とこういうやり取りが多いのが携帯ショップの接客業です。
求人広告では「パソコンを使った事務仕事と接客が半々、お客様に便利な機能を教えたり、お話し好きな方に向いているシゴトです」とか書いてあるけど、わたしの中では全然違う。
「接客という仕事を割り切って行えて(笑顔や言葉遣いは当然できる)、人から感情をぶつけられてもためこまず、その場で適切な返しができる人」
こういう人が向いていると思います。
向いている、というのは必ずしもお客様からほめられることではありません。辞めずに、折れずに続けられる人のことです。
お客様からほめられたことを励みにできる人というのは、逆を返せばお客様の言葉で一喜一憂しているということです。ほめる、怒鳴るはお客様が勝手にすることです。それに対して冷静に対応するのが接客業であるとわたしは思っています。(ほめられたときはうれしそうな顔をするのがマナーなので一応うれしそうな顔はしますが、特に心は動いてません)
笑おう笑おう、としなくていい。睨んだり見下す目線さえしなければ、ふつうの表情で大丈夫。あとは自然に「ちょっと笑った感じ」の顔が固定されてくる。
接客業では、お客様から向けられる感情をどれだけ受け流せるかが大事です。全員と真剣に向き合って、成果を出す人もいるかもしれませんが、それができるのは天才だけ。
わたしのような凡人が接客業でプロを目指すには、クレームを未然に防ぎ、感情を消耗させすぎず、時間内は集中力を切らさないこと。これが長く続ける秘訣だと思います。
夢も希望もない話ですみませんが、接客業が好きではない人のほうが、実は接客業に向いていると思っています。自分の心は家に置いてきて、お店に出たら店員になりきって働く、くらいのほうが続きます。
そのくらい軽めに接客をしていると、ふとしたはずみで世間話なんかも軽く口をついて出てきます。その部分で共鳴すれば、リピーターになってくれます。無理なく、本当にウマの合うお客様が、たまにリピーターになってくれれば、それで十分ではないでしょうか。
みんなの人気者になれなくても、地道に接客業をする。
そういう働き方も、安定感があって素敵だと思います。生活の軸が安定していると、ほかのことに夢中になれるし。
今日はここまで。また明日!
★今日の過去記事★
接客業に希望を持ってほしくて書いてるコラム。
今回書いたようなメッセージは過去にも書いてる
接客トーク術ももっと書きたいな。