接客業は卒業したよ! あけすけビッチかんどー日記!

接客業歴15年のかんどーが綴る、あけすけな日記。人生はチキンレースです。一歩引いた方が負け。たまに小説を書きます。お問い合わせはsaori0118ai2あっとまーくやふーめーるまで。

私は父の夢を叶えてあげられなかった

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私は親不孝なのかもしれない。

そもそもあまり仲良くできていなかった。うまく付き合えなかったのである。他の人から親との交流を聞かされると泣きそうになる。私はそれできてない……って。うらやましいというより、自分が情けない。


私は父の夢を叶えてあげられなかった。


私の父は料理人だ。生粋のフランス料理のシェフであった。経歴の中には鉄板焼きレストランでお客さんの前で肉を焼いていた時期もあり、娘の私が言うのもアレだが優秀な料理人であった。特に肉の調理にとても詳しかった。

フライパンで肉を焼いているとき、「レア」に仕上げたいなら手のひらの小指の付け根から伸びるぷっくりとした部分を押したときの感触を肉で確かめれば良いとのことだった。「ミディアム」なら親指の付け根部分を押したときの感触。「ウェルダン」なら手の甲を押したときの感触だそうだ。人によってそれは違うからこれを基本にして肉の手触りを覚えろ、とのことだった。


私はまさか自分が料理の仕事をすると思っていなかったが、この歳になって仕事で料理をすることになった。屋台での簡易調理ではあるが、野菜の下ごしらえからベーコンを選んでジュウ! と音を立てながら焼いたりいろいろする。

結論から言うと、私は料理のセンスがあるのだと思う。経験が無いわりにまともなものが作れるのは、父の教えが体の底にしみついているからだ。子どものころの私は父を誰より尊敬していた。

その父が美味しいというものは本当に美味しかったし、私は自分の舌に自信がある。(このあたりもいろいろ大変になる要因ではあったがこれは11月25日に文学フリマで販売するブログ裏本に書く)


さて、父の夢。

父は私の結婚式で式に出席するのではなく、コース料理のメインディッシュであるお肉を、会場でジュっと焼き上げて招待客にふるまうことが夢だったのだという。司会者から「今日のお肉は花嫁のお父様が一人一人に心を込めて焼いてまいります」とかそういうことを言われながら無心で肉を焼きたかったのだと。


素晴らしい夢だと思った。

だけど私には叶えてあげられないなとずっと思っていた。若い頃の私は別に、結婚にそこまでこだわりがなかったし、父のために結婚くらいしても良かった。だけど当時の私は「夫婦別姓」というものに異常にこだわっており、そうなると事実婚ということになり、正式に婚姻したということにはならないから結婚式もやらないことになった。

チャラい癖に私がいまだにバツなしなのはそういう理由があるのである。


そして今。

やっと私は夫婦別姓ガーとかいう気持ちがなくなった。両親とも仲良くないし、死んだら散骨をお願いするつもりだ。それなら苗字くらいもうなんでもいい。スズキでもコバヤシでもなんでもいいのだ。

つまり、法律婚に対する嫌悪がなくなったのである。


これは私が社会において女性であることの優位性の方を多く受け取ったからだ。社長になることもできたし、融資を受けた際も女性だということで利息が安くなる制度の対象になったこともあった。レディースデー万歳だし何やっても「女性なのにすごい!」と注目を集められる。私の会社が軌道に乗ったのは、社長の私が女性だったからである。


そういうわけで、私はやっと女性差別の呪縛から自由になれたのであるが、もう父は肉を切ることはできない。

昨年末に心臓の弁の手術をし、ギリギリ一命を取りとめたところだ。ものすごく痩せてしまったし、脳梗塞もあったから記憶障害も出ている。歩くのもヨロヨロとしており、もう元の父には戻らないのだと実感している。こうして人は老いていくのだということを痛感した。


私はもう父の夢を叶えてあげることができない。


結婚くらいしてあげればよかった。20代の私は頭がカチコチに固くなっていてどうしても日本の法律婚の制度に納得できなかった。今こんなに柔らかくなっているのなら、20代の私は一回くらい結婚して、父の夢を一度叶えてあげればよかった。実際、バツイチとか言ってもバツなんてまったく人生に影響ないじゃないか。私今バツ3とかでも全然構わなかったよ。やってることは変わらなかったと思う。


もしも奇跡が起こって、父が肉を切り分けることができるくらい回復したら、その時は間違いなく私、結婚式をする。


最初で最後の親孝行だ。


これが実現するか、それとも父はこのまま夢うつつの状態でこの世を去るのか、私にもわからない。ただ、奇跡が起こったらちょっと周りの人に協力をしてもらいたいと思う。

このくらいの希望は持ってもいいよね。


そしてもう一つ思うのは、私の両親は孫を見たことがないということだ。これはなんとも気まずいというか、ごめんなさいという気持ちになる。もう一人のきょうだいがマトモに機能していたら良かったのだけど、残念ながらうちの兄弟は私の方がマトモなレベルなのである。ごめんね。

生きている間にこういうのさせてあげたら喜ぶのかな。

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今、ご両親が健在で仲が良くないという方にもしも一言伝えられるなら、どんなに嫌なことを言う親だったとしても、ものも言えなくなったり食べられなくなったり、喋れなくなったら気持ちは必ず変わります。その時に後悔しないようにした方がいいです。

私、正直後悔してますよ。なんでこんな人生なんだろうって。
後悔してる時間がもったいないので、私のできる形で人を救うことに奔走するだけです。


奇跡、起こらないかな。


なんだか奇跡が起こりそうな気持ちがする夜です。
それじゃあ、また明日。