接客業は卒業したよ! あけすけビッチかんどー日記!

接客業歴15年のかんどーが綴る、あけすけな日記。人生はチキンレースです。一歩引いた方が負け。たまに小説を書きます。お問い合わせはsaori0118ai2あっとまーくやふーめーるまで。

わたしの手の中で美しく鳴いて

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※短編小説です。途中から官能小説っぽくなります。18禁。

 

 

わたしの手の中で美しく鳴いて

女の部屋のベランダに、1羽のセキレイが遊びに来ている。このセキレイが、毎日女のベランダへ来るので、可愛いからと女はエサを撒いてやった。

 

そうしたらセキレイは喜んで食べた。女は他の鳥が来る前に、かごで罠を仕掛け、セキレイを捕獲した。

 

セキレイは最初こそジタバタとしていたが、やがて諦めたように大人しくなった。女はセキレイに美しい、白い鳥かごを買ってやった。セキレイの美しい声を一日中聴くことができて、これは最高のBGMだと高笑いした。

 

なんという贅沢。どんな高級なスピーカーでも生の鳥の声にはかなわない。女は鳥の声を愛した。

 

 

そのうち、セキレイは鳴かなくなった。エサもきちんとやっているのに。かごも綺麗に掃除してやっているのに。

 

女は鳥かごの入り口を開け放った。セキレイは出ようとしない。めんどくさいなーと言いながら女はセキレイの羽を片方つかみ、外へ出した。そして14階のベランダからぽいとセキレイを放った。

 

セキレイは飛び方を忘れているのか、ただ落下しているように見えた。「下に人がいて、ぶつかってケガでもされたらめんどくさいな」と思い、女はベランダから身を乗り出してセキレイを探した。

 

セキレイはどうやら、落下途中で飛び方を思い出したようで、10階のあたりでジタバタとその場で停滞するような飛び方をしていた。そして、びゅう!   と風が流れてきた際、その風に乗るようにして羽を器用に動かし、遠くの空へ消えていった。

 

 

「鳥じゃだめね……」

 

女は口の中でそう言うと、携帯電話を操作し、手頃な男を部屋へ呼んだ。女は男を言葉巧みに誘い、その日のうちにベッドに誘い込むことに成功した。女は最初の手順のみ男に主導権を握らせたが、次のステップからは女が主体となって動いた。

 

「あっ……ダメっす……」

 

男のしゃがれた、情けない声を聞き、女は急に起き上がった。

 

「ごめん、生理が来ちゃったみたい。また今度来てくれる?」

 

そう言って男を帰らせた。ドアが閉まるのを確認したあと、「なにが、ダメっす……だよ。バカじゃねえの」と口の中でぶつぶつと文句を言った。しゃがれた声をまねしている自分の声がおもしろく、また高笑いをした。

 

その後、何人もの男を呼びつけて同じことを繰り返していた。あるとき、細身の男が女の部屋を訪れた。女は最初、まったく乗り気でなかったのだが、男のほうは何を察知したのか、手際よくベッドに進む段取りを進めた。

 

女は自分が主導権を握ろうと、体勢を変えようとするが、男は巧みに女の感じる場所を撫で、女に攻撃の隙を与えなかった。

 

「あっ……そこ、いい……」

「ここですか。もっと奥まで触ってもいい?」

「う、ん……」

 

肉体を通じての会話で心の距離が縮まっていく。女は当初の目論見などすっかり忘れて、男の指と舌に身を任せていた。

 

女は久しぶりに、行為を気持ちいいと感じた。この時間が永遠に続けばいいのにと願った。感じるほどに、自分の体や心が透き通っていくような気持ちになった。ある瞬間に、体がふわりと浮いたような感覚になり、脳の奥でセキレイの声が聞こえた。女は止まらない絶頂の波に乗った。

 

息も整わぬままに、男の肩に頭をのせて余韻にひたっていると、男は言った。

 

「今度はあなたの番ですよ」

 

女は男を精一杯悦ばせようとした。ついばむようなキスを男の全身にほどこし、男の体についている突起の小さなものから順に口に含んだ。最後の突起を頬張ると、男の味がした。先端をねぶるような愛撫から徐々に激しく。うっすらと汗ばみながら頭を振って摩擦を強くしていった。

 

「〇〇さん……」

 

男は、女の名をいとおしく呼んだ。その声の響きは美しいテノール。ああ、この声だ、女は涙が出そうになるのをこらえた。

 

女は、男の柔らかい二つの袋を順に口に含んで転がし、ゆっくりと後ろの穴へと舌先を滑らせた。男のテノールが美しく響くのを確かめてから、ゆっくりと舌を差し入れていく。舌で充分にそこを愛する間、女は男のふだん隠れている場所すべてを指先で探り出していく。

 

男の美しいテノールが、女の名前でも動詞でもなく、ただのテノールに変わった。女はその声を聴いて絶頂した。そのあとの行為でも絶頂を経験したが、女は、男のテノールで絶頂した瞬間に、最も興奮を覚えた。

 

 

ふたりはほどなくして恋人となった。一緒に暮らし、同じものを食べ、会話で互いの予定などを確認しあう。男の声はふだんから気持ちのいいテノールであり、女は男との日常の会話にさえ情欲をかきたてられるほどであった。

 

移り気だった女は男と一緒に暮らすようになって一途な女へと変わり、周囲が女を見る目も変わった。女は男にありったけの愛情を注ぎ、普通のものや日常を愛するようになり、 読む本もマニアックなホラー小説からベストセラーへと変わっていった。

 

 

春から夏、そして秋へとうつろう季節の中。女の中で、恋が愛に変わろうかというとき、男は浮気をした。

 

女が泣いて問い詰めると男は、「刺激がほしかった」などとありきたりなことを言った。女は「もう二度としないで」と小さく泣き、身を切る思いで男を許した。

 

やっと女の心の傷が癒えた頃、男はまたしても浮気をした。今度の浮気は長く深いもので、女の部屋には週に一、二度荷物を整理しに来るだけとなり、いよいよ別れの色が濃くなった。女は男を心から愛しく思っていた。自分から別れるなんてとてもできそうにない。身を切られるようにつらい時間が過ぎた。

 

 

季節は寒い冬になっていた。男は週に一度、申し訳程度に女の部屋へやってくる。もはや「帰ってくる」とは言えない状態になっていた。

 

その日も女は一人だった。ぼんやりと外を眺めていると、ベランダに鳥がいた。セキレイだった。チョコチョコとベランダを歩き回っている。耳をすませると、かわいらしい声が聞こえてきた。

 

女はまた、ベランダにエサを撒いた。しかしセキレイを捕らえることは考えなかった。カゴの中では鳴かなくなることを知っていたからだ。女はベランダでかわいらしい声をあげるセキレイを何日か眺め、充分にその声を楽しんだ。

 

その翌日、エサに毒をまぜてセキレイを殺した。

 

 

〜完〜

 

 

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