接客業は卒業したよ! あけすけビッチかんどー日記!

接客業歴15年のかんどーが綴る、あけすけな日記。人生はチキンレースです。一歩引いた方が負け。たまに小説を書きます。お問い合わせはsaori0118ai2あっとまーくやふーめーるまで。

坂口安吾「いずこへ」によって魂が救われた話

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特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
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こんにちは、かんどーです。

わたしには青春なんてありませんでした。あったのはいじめられた学生時代と友達のいないまま放り出された社会、唯一の救いとなったセックスのみです。


青春の一冊は何か、なんて問われても、学生時代は本を読んだことがなかったので何も思いつきません。ただ、青春の定義を「生きる意味などを哲学的に考えた若い時代」と勝手に解釈して良いのならば、わたしの青春時代は25歳頃になります。そして、そのとき死にたくて死にたくてたまらなかったわたしを救ってくれた本があります。


今日は、その話をしようと思います。


当時わたしには友達がいませんでした。ただの一人も、いませんでした。だからたまに出会う行きずりの男がいい人で、ライブをやるから(舞台をやるから)見にきてくれと言ってくれても、一緒に行く友達がいないため、

「うん、行く」

と笑顔でうなずいたものの、当日になって

「熱があるからいけない」

と断りのメールを入れて、それきりその男とも会わなくなるのがほとんどでした。友達がいないことは当時のわたしにとって何より恥ずかしいことだったし、どんな女のひとでもいいから、同年代の人に友達になってほしいと思いました。

でも、友達はできませんでした。





どうやったら友達ができるのか、わからなかった。


セックスをすれば男性とは仲良くなれることがわかったけど、それはこちらが「若さ」を提供しているから需要があるのであって、女性同士で何を提供しあえるのかが、本当にわからなかった。


若い時分に、友の一人もいないというのは本当につらいもので、それがどうつらいのか、言語化するすべもなかった。当時はインターネットの繋ぎ方がわからなかったから、テレビで殺人事件を見るたびに、心の寂しい人がやるんだろうと思った。わたしもいつか刑務所に入ることになるんだろうなとぼんやり思っていた。

刑務所に入れば、同部屋のひとができる、みんな寂しくて罪をおかした人なのだろうから、そこなら友達ができるかもしれない、そんなことを考えていた。


悪い人にはなりきれず、ヤンキーにもなれず、かといって仕事ができるわけでもない、他者の気持ちがわからない。セックス以外で人とつながれない自分の存在価値がどこにもないと思った。


ふと、死に至る病をいくつか思い浮かべたとき、性病で死ぬのがいいんじゃないかと思った。わたしに合っている。無差別にセックスをして、どこの誰だかわからない人からうつされた性病で死ぬ。いや、わたしは死を待つカウントダウンが怖いから、その前に自死するだろう。そうなる。


東京で好きな街は「池袋」だった。しかしゲームセンターにもドトールコーヒーにも飽きてしまっていた。(一人だと遊びの選択肢が異常に少ない)たばこが吸える場所をただうろうろと歩くだけ。髪に超絶長いエクステンションをつけていたから、セックスの相手に困ることはなかった。しかしセックスをするだけで、一緒に酒を飲んだりするのは正直だるかった。酒は一人で飲みたかった。

夜のアルコールは唯一の救いだった。当時ガバガバと焼酎を飲み、一人でつめたい床に転がって眠りに落ちる日々を送っていたわたしに、一体何が起こったのか、どこかでセックスをした男から聞いたんだったか「本」が面白い娯楽であることを知った。


最初に読んだのがどの本だったか、覚えていない。全部ブックオフで買っていた。本屋というのはブックオフのことだと思っていた。


雑誌やゲームのコーナーの方がおもしろそうなのをがまんして、小説の棚へ行く。読めそうな本を読んでみた。たしか、吉本ばななや林真理子の本が当時のわたしに読める「女性の生き方」的な本だった。

そこから活字を読むのに慣れて、やがてわたしは教科書に載っているような本を読み始めた。最初の数ページを立ち読みして、読めないと思ったら買わない。そこで読めたのが、太宰治だった。

太宰の小説はその日からスタートして、何か月かかけて全部読んだ。

全部覚えているわけではないけれど、幼少期の太宰が私小説的に描かれているお話が好きだった。からだの不自由な娘を抱え、戦火を逃れる描写も記憶に残っている。そして、読み終えたわたしに残っていたのは「死は救いたりえる」という一種のトランス状態だった。こんど好きになった男ができたら、一緒に死んでみようと思った。


そんなとき、たまたま手に取った文庫本が、坂口安吾の「堕落論」だった。

 

堕落論

堕落論

 

 

安吾の「堕落論」は、徹頭徹尾「堕落」について語っている。彼が、彼自身の堕落を語るとき、それは人間全体の持つ堕落に通じている。わたしは自分も「堕ちたい」と思っていることをその本で知った。

坂口安吾の本は、すきまなく面白かった。日本の文化の美しさをあらわした本では、「必要なものがそこにある風景であるから、うつくしいのだ」と書いてあった。それまで景色など見たことがなかったわたしは、それ以来工場や働く人の動きをよく見るようになった。無駄のない動きはうつくしかった。

日本が好きになれた。器のうつくしさ、茶道というもののうつくしさ、華道のうつくしさを知った。気づいたら生け花の師匠に弟子入りしていた。最小限の花でシュッとした美しさをつくる花そのものにもひかれたし、なによりわたしは器の美しさが好きだった。生け花教室ではひたすらに花の生け方を習ったが、それ以外の時間でわたしは陶器まつりなどに行き、気に入った花器を集め、花を生けた。生け花を習っていると花を持ち帰ることになるので、必然、家に花が飾られることになる。

酒を飲んで床に寝る生活にひとつのリズムができた。花を飾ることだ。


花を飾るためには少しのお金が必要だった。さまざまな手段でお金を得ることができたが、わたしは花に恥ずかしくない生き方をしたいと思い、やっとまともな仕事について稼ぐようになっていった。

そうしているうちに、坂口安吾の小説の中で、ある物語が心をひきつけてやまないことに気づいた。「いずこへ」という短編だ。

 

いずこへ

いずこへ

 

 



この「いずこへ」は、短く言ってしまうと、安吾が出会った人や日常、とりわけ女を描写している作品だ。彼の目に女は不可思議な生き物として映っていた。彼はある股のゆるい女と行動をともにすることになるのだが、その女の行動がいちいち哀しかった。


女はアキという名だった。



アキは淋病になっていた。それが分ると、男に追ひだされてしまったのだ。もっとも、男に新しい女ができたのが実際の理由で、淋病はその女から男へ、男からアキへ伝染したのが本当の径路なのだというのだが、アキ自身、どうでもいいや、という通り、どうでもよかったに相違ない。アキは薄情な女だから友達がない。


(中略)


「あの木は男のあれに似てるわね。あんなのがほんとに在ったら、壮大だわね」
 アキは例のチャラチャラと笑った。
 私はアキが私達の部屋に住むようになり、その孤独な姿を見ているうちに、次第に分りかけてきたように思われる言葉があつた。それはエゴイストということだつた。アキは着物の着こなしに就て男をだます工夫をこらす。然し、裸になればそれまでなのだ。

 


本の中に、わたしがいた。

この短編は、いわゆるオチがある話ではない。しかし読者は安吾の目線で当時の昭和を一緒に呼吸し、においを感じ、アキと出会う。アキをどう思うかは読者の心次第だ。

アキは数十年違う時代を生きているだけで、わたしだった。

わたしはアキを好きになり、アキが生きた日本で人生を全うしようと思った。安吾のような文豪に会えたことは彼女の幸運だったかもしれない。わたしは自分の中のアキを愛しいと思った。この思いを何とかして現代にも浮かび上がらせたいと思った。誰かに話したい。しかしわたしには相変わらず友達がいなかった。


わたしは「いずこへ」の締めの文章が大好きだ。さすがに物語のラストなのでここに引用はしない。ただ、人生を自分の手で終わらせるにはまだ早いと思わせるだけの力がその文章にはあった。

どんなにつらいときでも、その一文をそらんじていると、不思議と気持ちが落ち着いた。


ああ、これが人としての「知りたい」「学びたい」なのか。



小学生でも知っているような感情に、25歳で気が付いた。恥ずかしくなんてなかった。最初からやればいいだけだ。友達がいないというのは、人と比較しなくてすむということでもあったから、当時のわたしは恥ずかしげもなく小学校から勉強をやり直した。残念ながら、「書き順」だけはうまく学べないので、実はひらがなの書き順が変なのだけれど、それ以外はだいたいまっとうな人間になれたと思う。


「会ったその日にセックスしない」
「ていねいな言葉を使って話す」
「エリのついた服を着る」

本から何を学んだかって、まあこの3つなんだけど、当時のわたしにしては大きな進歩だった。それをくれたのは、まぎれもなく坂口安吾の「いずこへ」だった。


死ぬ直前、何か一冊本を読ませてくれるなら、これが読みたい。


古い言葉づかいで、少し読みにくいかもだけど、青空文庫で読めるので、そちらのリンクも貼っておきます。

http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42898_35404.html




…なんかまたお題の記事で失敗している気がするけれど、今日はこの辺で。


それじゃあ、また明日。


☆今日の過去記事☆

 

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