クリスマスに仕事なんて。
そんなふうに言う人もいるかもしれない。でも、わたしはそうは思わない。あたりまえのイベントをあたりまえに過ごさなくてはならないなんて、一体誰が決めたのだ。
ここ数年、わたしはクリスマスの時期は仕事をすることにしている。みんなが休みたい時期だから、出勤を希望すればシフトは通る。サービス業だから「赤い日」は出勤するものと思っている。12月半ばから年末まで、休みはほとんどない。
そんな生活に慣れた今。じつは少しほっとしている。仕事があるから。休めないから。目の前に立ちはだかるクリスマスに対し、わたしは切り札を持っている。
「友達とパーティー」「仲間と飲み会」「豪華なフレンチ」の呪縛から、するりと逃げ出せるとっておきの切り札は、仕事なのだ。
もちろん仕事中は必死にがんばる。サービス業は土日が忙しい。息つく暇もなく働いている。
しかし、どこかでほっとしている。
「クリスマス何してた?」
の答えを用意するためだけに、行きずりの男性といんちきなフレンチ居酒屋に食事に行ったり、胃が痛くなりながらプレゼント交換をしたり、足が痛くなりながらハイヒールを履かなくて良くなったからだ。
クリスマスイブの日。仕事はとても忙しかった。夕方、短い休憩時間。数少ない友達に「メリクリー!」なんてメールを送ってみた。
夜の9時になっても何の反応もなくて、死にたくなった。
ようやくお風呂に入って、ひと息つけた夜の11時。
チャーリラーリラララー♪
わたしの携帯がメールが来たぜ~♪ と歌った。差出人は、昼間メールを送った友達だった。
「メリクリ! 今夜は単発のバイトで、イルミネーションイベントの運営をしているよー! すごい人!」
彼はクリスマスのど真ん中で、クリスマスを裏から支える仕事をしていた。
彼は頭も良くて朗らかなのだけれど、とても頑固な人だ。友達のわたしでさえ、その頑固さにウンザリしたことがある。ウンザリしつつも、そのほかの好きなところが多すぎて、友達をやめずにいる。もう8年の付き合いか。
彼は世間のしきたりやしがらみが嫌いだ。お金を使わない生活が好きなので正社員をやる必要もない。単発のバイトで食いつなぐので充分なのだという。
単発のバイト、という言葉に何のネガティブも感じずにメールに書いてくるところも彼らしい。
彼はわたしより少し、世間から自由であり、わたしより少し、地面から足が浮いている。
笑った顔に嘘がなくて、子どもの目をして生きている。きっと彼は、子どもからいきなり老人になるのだろう。
キラキラと輝くイルミネーションを子どもの目で見上げながら、幸せそうな人々の波を目を細めて眺め、寒さをものともせずに街頭での業務をこなしているのだろう。
わたしはクリスマスから逃げた。友達も、もしかしたら逃げたのかもしれない。だけど、2人ともおなじなのは、それはそれで人生を楽しんでいることだ。
忙しい携帯ショップも。
イルミネーションの人ごみも。
クリスマスを外側から眺めたいから選んだ場所なんだ。
近くて遠い、クリスマス。
このくらいの距離で眺めるのが、ちょうどいいかもしれない。きっと彼も、そんな気持ちだったのかな。
今度会ったときに聞いてみよう。
明日も仕事があるから、今夜はこのまま寝てしまおう。目を閉じると、彼が見上げたイルミネーションが広がっていった。